外国人労働者に社会保険は適用される?
日本で働く外国人も基本的に社会保険の加入義務があります。日本では給与から社会保険が天引きされるため、その環境に慣れない外国人には納得がいかないことも多いようです。トラブルになるのを避けるためにも、まずはどのようなルールがあるのか企業様がしっかりと理解することが大切です。
目次
社会保険とは、今後生活に何かがあった際に備えるための保険制度です。
会社員として働く日本人は、当然のように社会保険に加入していると思います。
では、それが外国人の場合はどうなるでしょうか。
日本人とは異なる制度もありますので、ご説明いたします。
1.外国人も社会保険に加入する必要がある?
日本で働く外国人も基本的に社会保険の加入義務があります。
しかし、例外となる場合もあるので詳しくご説明します。
まず、外国人に必要な社会保険は4つに分けられます。
- 厚生年金保険
- 健康保険
- 労災保険
- 雇用保険
厚生年金保険と健康保険は、セットで加入する必要があります。
そのため、健康保険は加入するが厚生年金保険は加入しないなどはできません。
また、外国人にとって社会保険が給与から天引きされた場合は、納得がいかないことも多いようです。
トラブルになる可能性もあるため、なぜ支払う必要があるのかを理解してもらうことが大切です。
2.外国人でも社会保険の加入は求められる
2019年に施行された「特定技能」制度ですが、現在では介護業界などを筆頭に多くの特定技能外国人が日本で働いています。
比較的、新しい制度ということもあって制度を理解しきれていない方も多いのではないでしょうか。
そのため、社会保険に関する問題が数多く起こっています。
外国人にも社会保険の加入義務がある
外国人も一定の条件がある企業では社会保険の加入が義務付けられています。
近年、特定技能外国人が社会保険に未加入だったことで、病気やケガの際の費用負担を巡り大きな問題になってきました。
国会でもこの問題が取り上げられるようになり、厳しい摘発が行われるようになりました。
社会保険に未加入・滞納すると在留資格がおりない
特に多発しているのが、外国人が留学生の頃に社会保険を未納していたことで、特定技能の在留資格がおりないことです。
外国人は留学生の頃、資格外活動許可を得てアルバイトをしている人は多いです。その際に、社会保険料を未納だったことが特定技能の在留資格認定証明書交付申請時に判明します。
そうなると、特定技能の試験に合格していても、特定技能の在留資格認定証明書が不交付、つまり在留資格がおりないということが起きています。
そのため、在留資格が更新できない外国人が多発しているため、過去にアルバイトなど仕事をしてきた外国人が社会保険を納付していたかはしっかり確認する必要があります。
また、出入国在留管理庁では「社会保険に未加入・滞納が続くと、外国人の在留資格の更新を許可しない」とも言っています。
社会保険の未加入は事業者の責任
会社で働くようになれば、基本的に社会保険は給与から天引きされるため、外国人が支払わないというよりは、会社側で負担する保険料が遅延する、長期間滞納するということになります。
そのようなことが起こると、外国人の在留資格の更新を認可しないという流れになっています。
また、日本人は当たり前に社会保険に加入している人が多いですが、外国人にとっては大きな出費となります。
そのため、なぜ社会保険に毎月お金を払わなくてはいけないのかと思う外国人も多いです。
その際は、会社側がなぜ社会保険が必要なのか、未加入だとどうなるのかを教えてあげて納得してもらうようにしてください。
特に在留資格が更新できないというのは、母国から1人で日本に働きに来てくれた外国人にはとても苦しい状況であり、会社側としても多くの時間と費用をかけて採用したことが無駄になってしまいます。
何より、社会保険の未納・滞納などが起こると会社側の大きな責任ととらえられ信用を失う可能性があります。
そのようなことがないように特定技能外国人を含め、外国人の社会保険加入というのをしっかり理解していただきたいと思います。
3.厚生年金保険・健康保険
厚生年金保険と健康保険は、強制適用事業所に指定されている会社の場合、国籍問わず全ての雇用者が加入対象となります。
また、先程も説明したように厚生年金保険と健康保険はセットと考えてください。
なぜ外国人はもらえない年金を支払うのか?
厚生年金保険は国籍問わず、厚生年金保険の適用を受ける会社に勤務する人は全員加入対象となります。
外国人でも未納であると、日本人と同様に催促状が届き、期日までに支払わないと延滞金の発生や差し押さえが入ることもあります。
しかし、外国人からすると「いずれ母国へ帰ったら年金をもらえないのではないか」「母国でも年金保険を支払っているため負担が大きい」と不安になります。
それでも日本政府が外国人に年金を支払うことを義務付ける理由は、日本の少子高齢化社会にあります。
数年前から日本の少子高齢化は問題になっていましたが、今後それが大きく改善する可能性は低いです。
2025年には65歳以上の方1人を20歳~64歳までの方1.8人で支えることが想定されています。
約2人の現役世代が1人の高齢者を支えるというのは、非常に厳しいものがあります。
日本政府は少しでも多くの年金を確保するため、数年で帰国する予定の外国人に対しても年金支払い義務を課しています。
厚生年金保険を免除する制度
このように日本側が年金だけ支払ってもらい、外国人には還元しないというのは外国人にはあまりに不利な制度です。
そのため外国人に不利益が生じないために、厚生年金保険を免除できる方法があります。
社会保障協定
外国人が母国で年金保険に加入している場合、日本でも厚生年金保険に加入すると二重払いなってしまいます。
日本では、年金を受給されるためには一定期間年金を支払う必要があるため、一定期間以前に帰国してしまう外国人は保険料を掛け捨てになるという不利益が生じます。
このような問題が起こらないための制度が「社会保障協定」です。
以下を目的として締結しています。
- ・「保険料の二重負担」を防止するために加入するべき制度を二国間で調整する(二重加入の防止)
- ・年金受給資格を確保するために、両国の年金制度への加入期間を通算することにより、年金受給のために必要とされる加入期間の要件を満たしやすくする(年金加入期間の通算)
社会保障協定している国
2022年5月時点での、社会保障協定の発効状況は以下の通りです。
23か国と協定を署名済み、うち22か国は発効済みです。
協定が発効済みの国 | 署名済み未発効の国 |
---|---|
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|
社会保障協定の内容は、基本的に各国共通していますが、制度内容が多少異なる国もあるためこちらをご確認ください。
協定を結んでいる国との協定発効時期及び対象となる社会保険制度
脱退一時金
社会保障協定をご説明しましたが、世界195か国(日本含めず)ある中の23か国しか対象となりません。
これらの国以外の外国人は年金を掛け捨てにすることになってしまいます。あまりにも対象者が少ないですよね。
そのような方を防ぐための制度が、「脱退一時金」です。
国民年金・厚生年金保険の被保険者の資格を喪失し帰国した場合、(一時帰国も含む)日本の住所を有しなくなった日から2年以内に脱退一時金を請求できる制度です。
会社を辞めたあとの話になりますが、ぜひ外国人にこのような制度があることを教えてあげてください。
厚生年金保険の脱退一時金支給要件
厚生年金保険の脱退一時金の支給要件は以下のとおりです。
- 日本国籍を有していない
- 公的年金制度(厚生年金保険または国民年金)の被保険者でない
- 厚生年金保険(共済組合等を含む)の加入期間の合計が6月以上ある
- 老齢年金の受給資格期間(10年間)を満たしていない
- 障害厚生年金(障害手当金を含む)などの年金を受ける権利を有したことがない
- 日本国内に住所を有していない
- 最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していない
(資格喪失日に日本国内に住所を有していた場合は、同日後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していない)
厚生年金保険の脱退一時金の支給額
厚生年金保険の脱退一時金の支給額は以下の計算式で算出されます。
「被保険者であった期間の平均標準報酬額×支給率(保険料率×2分の1×支給率計算に用いる数)」
脱退一時金の受給方法
2021年4月から制度が変わりました!
脱退一時金は1回で3年分までしか受給されませんでしたが、これからは5年分まとめて受給することができます。
しかし、2021年4月1日から1ヵ月以上年金に加入した人が対象なので注意してください。
何が変わった?
加入期間 | 2021年3月まで | 2021年4月以降も継続 |
---|---|---|
受給年数 | 1回で3年分まで受給できる | 1回で5年分まで受給できる |
受給方法 |
|
|
2021年4月以降、日本で働く期間が5年以上だとしても1回に受給できる脱退一時金は5年分になります。
下記の場合であれば脱退一時金を全て受給できる可能性があります。
- 例:①技能実習1号・2号が終了し、一時帰国したため脱退一時金を(3年)受給
- ②特定技能1号が終了し、帰国したため脱退一時金を(5年)受給
健康保険が対象となる事業所とは
強制適用事業所
強制適用事業所と認定された会社は、厚生年金保険・健康保険の加入が義務付けられています。
どのような条件で強制適用事業所と認定されるのでしょうか。
- 従業員が1名の会社であっても、雇用主が法人の場合
- 記16業種で、常時5人以上の従業員を使用する事務所
- 製造業
- 土木建築業
- 鉱業
- 電気ガス事業
- 運送業
- 清掃業
- 物品販売業
- 金融保険業
- 保管賃貸業
- 媒介周旋業
- 集金案内広告業
- 教育研究調査業
- 医療保健業
- 通信報道業
4.労災保険
仕事中、通勤中に病気やケガをした場合、治療費が保証される保険ですね。
労災保険は、原則として従業員を1人以上雇った場合は必ず加入しなければなりません。
労災保険が適用される人
日本の会社で働く外国人は、正社員・パート・アルバイトなど雇用形態を問わず全ての人が対象となります。
日本で就労可能な在留資格を持っている人はもちろん、資格外活動許可でアルバイトをしている外国人も対象となります。
しかし、ここで注意したいのは雇用した外国人が不法滞在者であっても労災保険は適用されることです。
雇用者が不法滞在者ということを知らなくても適用されます。
また従業員を労災保険に加入させる義務は会社側にあります。
そのため、未加入の際に労災事故が発生した場合、期間を遡って保険料を徴収され、さらに労災保険から給付を受けた金額の100%または40%を事業主から徴収されることになります。
外国人だからといって労災保険に未加入ですと、会社側にペナルティが課されるので注意してください。
5. 雇用保険
外国人でも日本人でも雇用保険の加入条件は変わりません。
以下の条件を満たす場合は原則加入する必要があります。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上の雇用見込みがあること
31日に満たない雇用契約でも、更新の可能性がある場合は雇用保険の対象に含まれます。
雇用保険の適用除外
上記の適用条件を満たさない人はもちろんですが、雇用保険が適用除外される外国人条件があります。
全日制教育機関に通う学生(昼間部)
「留学生」の在留資格で資格外活動許可を取得してアルバイトなどをしている外国人のことです。
週28時間以内の就労となっていますが、20時間以上働いても雇用保険は適用されません。(卒業見込み証明書があり、その後も就職して働く場合は加入義務あり)
通信制、夜間部の教育機関に通う学生は雇用保険の加入が必要になるので、学生の通う教育機関をしっかり確認しましょう。
ワーキングホリデー
ワーキングホリデーとして来日する外国人は「特定活動」という在留資格を取得します。
ワーキングホリデーは、基本的に在留目的は「就労」ではなく「休暇」と見なされるため、企業で就労しても雇用保険の必要はないと判断されます。
以上が、外国人労働者の社会保険についての説明でした。 外国人は給与から引かれる税金について細かく聞く人も多いです。 特に、厚生年金は少し複雑なので注意してください。 法律だからと言って、説明しないと外国人は不安になってしまうので、社会保険について納得できるような説明をしてあげると良いです。
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