外国人労働者はどんな時に差別を感じるのか?雇用企業ができることは?

少子高齢化による人口減少が進む中、日本で働く外国人労働者の存在は、経済・社会の発展において重要な役割を担っています。しかし、外国人労働者が直面する課題の一つに、日本人による無意識の差別や偏見があります。多くの人が日本には人種差別がないと考えがちですが、実際には知識不足や日常生活に溶け込んだ差別行為に気付いていないことも少なくありません。 この問題を解決するためには、企業が率先して異文化理解を深め、差別や偏見のない労働環境を整えることが求められます。これらを踏まえ本記事では、外国人労働者がどんな時に差別を感じるのか、そして雇用企業ができることついて解説していきます。

外国人労働者はどんな時に差別を感じるのか?雇用企業ができることは?

目次

  1. 外国人労働者の現状
  2. 外国人労働者を雇用するメリット
    1. ①人手不足の解消
    2. ②訪日外国人への対応力向上
    3. ③革新的なアイデアや技術の創出
    4. ④助成金の活用
  3. どんな時に差別を感じるのか
    1. 雇用に関する差別
    2. 賃貸契約に関する差別
    3. 労働環境に関する差別
    4. 身体的な暴力に関する差別
    5. 言葉の暴力に関する差別
    6. 年功序列に関する差別
  4. 企業による外国人労働者への差別事例
    1. 賃金不払い
    2. 違法な時間外労働
  5. 差別を無くす取り組み
    1. 雇用・採用における公平性の確保
    2. 生活面のサポートとメンタルヘルスケア
    3. 労働環境の整備
    4. 暴力・ハラスメントの防止
    5. キャリアプランの提示
  6. まとめ

外国人労働者の現状

厚生労働省の最新データ(2023年10月末時点)によると、日本で働く外国人労働者は2,048,675人に達し、前年から12.4%増加しました。外国人労働者を雇用する事業所も318,775所に増加し、いずれも過去最高を更新しています。国籍別ではベトナムが最も多く、次いで中国、フィリピンと続いています。在留資格別では、専門的・技術的分野の在留資格や技能実習の増加が顕著です。
一方、法務省の2016年度外国人住民調査によると、外国人の39.3%が家探しの際に、25.0%が仕事探しの際に「外国人であることを理由」に拒否された経験があり、29.8%が差別的な言葉を受けたことがあると報告されています。差別を受けた相手としては、53.3%が見知らぬ人、38.0%が職場の上司や同僚、19.3%が近隣住民であったとされています。


外国人労働者を雇用するメリット


①人手不足の解消

外国人労働者の雇用は、人手不足の解消に大きく貢献します。特に、特定技能外国人の多くは若い世代であることから、日本の少子高齢化社会において貴重な人材確保の機会となります。また、彼らは一定の専門知識や技能を持ち、日常生活に支障のない日本語能力を備えているため、即戦力として期待されるでしょう。


②訪日外国人への対応力向上

外国人労働者の雇用は、訪日外国人への対応力向上や社内外のグローバル化といったメリットがあります。彼らは母国語に加えて日本語や英語など複数の言語を話せることが多く、外国のお客様との対応や接客、通訳など様々な場面での活躍が期待できます。また、こうした人材が社内にいることで、現地の法律や文化、ビジネス習慣に精通した知識や技術を取り入れることができるため、販路の拡大や新たなビジネスチャンスが生まれるきっかけとなるでしょう。


③革新的なアイデアや技術の創出

外国人労働者を雇用することで、異文化の視点や考え方に触れる機会が得られ、革新的なアイデアや技術の創出が期待されます。異なるバックグラウンドを持つ従業員同士のコミュニケーションを通じて、社内の文化が多様化し、これが従業員の発想力を高め、企業全体の活性化に繋がるでしょう。また、このような環境は業務改善や意識革新を促進する要因ともなります。


④助成金の活用

外国人労働者を雇用する際には、一定の条件を満たせば助成金を活用できます。雇用に伴う採用、定着、育成にはコストや労力がかかりますが、助成金などの支援制度をうまく利用することで、負担を軽減することが可能です。

外国人労働者の目的や状況に応じて適用される助成金は異なりますが、おすすめの助成金は以下の通りです。


人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)

外国人労働者は、日本の労働法制や雇用慣行に対する理解不足や言語の壁などから、労働条件や解雇に関するトラブルが発生しやすい傾向があります。この助成金は、外国人労働者の特有の事情に配慮し、就労環境を整備する事業主を支援するもので、職場への定着を図るための経費の一部を国が助成する制度です。


業務改善助成金

中小企業や小規模事業者、または働き方改革に取り組む企業などを対象に、賃金引き上げや設備投資を通じて業務改善や生産性向上を図る際、その費用の一部を国が助成する制度です。


トライアル雇用助成金

職業経験の不足などにより就職が困難な方々の早期就職や雇用機会の創出を目的とした制度です。この助成金は、一定期間試用的に雇用した事業主を対象に支給され、無期雇用契約への移行を前提としています。特に、日本での就労経験が少ない外国人を雇用する際に、雇用のハードルを下げるために利用できます。これにより、企業は外国人労働者の適性やスキルを見極めながら、定着を促進することができるでしょう。


人材開発支援助成金

事業主が雇用する労働者に対し、専門的な知識や技能を習得させるための職業訓練を計画的に実施した場合に、訓練費用や訓練期間中の賃金の一部を国が助成する制度です。


キャリアアップ助成金

非正規雇用の労働者のキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して助成を行う制度です。ただし、技能実習生や特定技能1号は対象外ですが、定住者や長期雇用を前提に更新を続ける在留資格では、助成の対象となる可能性があります。



どんな時に差別を感じるのか

雇用に関する差別

日本語で十分にコミュニケーションができ、仕事の適性もあるにもかかわらず、外国人であることを理由に採用されないことがあります。これは、外国人を雇用することで犯罪やトラブルが増えるのではないか、文化や習慣の違いから社内に摩擦が生じるのではないかといった誤った認識からくる無意識の差別や偏見が影響している可能性があります。このような偏見は、スキルや経験を正当に評価せず、単に国籍や人種を理由に不利益を与える結果となっているのです。


賃貸契約に関する差別

外国人であることを理由に賃貸契約を断られることがあります。これは、外国人入居者のマナーに対する不安や、外国人に対するネガティブなイメージ、文化や習慣の違いに対する無理解から生じることが多いです。「外国人お断り」と記載された物件もありますが、こうした差別的な扱いは、外国人の数が増えるにつれてトラブルを引き起こし、不動産企業の評判や信頼に悪影響を及ぼすでしょう。


労働環境に関する差別

長時間労働や低賃金、賃金未払い、安全対策の不十分さ、適切な教育の欠如など、劣悪な労働環境に置かれる外国人労働者が多く存在します。これらの問題は、健康や生活の質を低下させ、怪我や事故のリスクを高める要因となります。外国人であることを理由に、これらの問題が許されるべきではありません。しかし、外国人労働者は言語の壁や文化の違いから効果的に抗議することが難しく、その結果として劣悪な労働環境に耐えざるを得ない状況が続いていると考えられます。


身体的な暴力に関する差別

工具でヘルメットを叩くなどの身体的な暴力が報告されています。外国人労働者には日本人労働者と同様に、労働基準法や労働安全衛生法などの労働関係法令が適用されており、パワハラやいじめといった身体的な暴力はこれらの法律に違反する行為です。このような暴力行為は、被害者の身体的健康のみならず、精神的な安寧にも深刻な影響を与えます。また、企業がこれを見て見ぬふりをすることは、企業の評判や信頼を損なうだけでなく、外国人と日本人の間に深刻な社会的分断を生じさせ、さらには外交関係にも悪影響を及ぼす可能性があります。


言葉の暴力に関する差別

暴力には身体的なものだけでなく、言葉による暴力として現れることがあります。外国人に対する差別的な言葉や侮辱、罵声は決して許されるべきではありません。しかし、特定の国の人々に対する攻撃的な言葉や差別的な発言は、日本でも依然として見られます。2016年に施行されたヘイトスピーチ解消法により、こうした言動は違法とされていますが、一部の公共の場や匿名性の高いオンラインでは問題が続いているのが現実です。ヘイトスピーチが放置されると、差別的な文化が根付き、共生社会の調和が損なわれ、社会的な結束が崩壊する恐れがあります。


年功序列に関する差別

日本の年功序列による雇用体系は、外国人労働者にとって不公平に感じられることがあります。外国人労働者は即戦力として期待される一方で、年齢や勤続年数が短いため、能力や業績にかかわらず、昇進や給与が制限されることが少なくありません。成果主義が一般的な国から来た外国人労働者にとって、このような状況はモチベーションの低下やキャリアの停滞に繋がることがあります。その結果、優秀な外国人労働者がキャリアを発展させるために、日本企業から他国の企業に移る現象も見られます。


企業による外国人労働者への差別事例

賃金不払い

縫製会社で働く技能実習生から、タイムカードの打刻後も時間外労働を命じられ、その分の割増賃金が支払われていないとの申告がありました。調査の結果、終業時刻後にも作業が行われていたことが確認され、この事例では、過去の未払い分として約142万円の割増賃金が技能実習生に支払われています。


違法な時間外労働

自動車整備工場において、技能実習生に対し、36協定で定められた延長時間(1ヶ月70時間)を大幅に超え、最大で月109時間30分の違法な時間外・休日労働を行わせていたことが明らかになりました。さらに、この違法労働を隠すために、虚偽のタイムカードが提出されていたことも確認されています。


差別を無くす取り組み

雇用・採用における公平性の確保

外国人であることを理由に、応募を拒否または不採用にすることは、公正な採用選考に反します。外国人労働者をカテゴリーで捉えるのではなく、一人ひとりの個性を尊重し、日本人が無意識の偏見を押し付けないよう心がけることが重要です。
採用時には、雇用条件や待遇、仕事内容、残業や休日に関する事項を、国籍や人種にかかわらず適用されるものであることを、理解できる言語で丁寧に説明し、誤解を防ぐために十分な時間をかけて相互理解を深めましょう。また、採用面接を担当する者は、相手の文化を事前に調べ、差別的な発言や態度を避けるよう努める必要があります。各企業が適切な対応を積み重ねることで、日本は外国人労働者から選ばれる国となるでしょう。


生活面のサポートとメンタルヘルスケア

異国での生活は、言語や文化の違い、家族や友人がいない心細さなど、多くのストレス要因があります。その一例として、外国人労働者が賃貸契約に苦労するケースが挙げられます。こうした課題に対処するために、企業はあらかじめ入居可能な物件の情報収集を行い、必要に応じて借り上げ物件を提供するなど、対応力を持つことが重要です。また、入居に際しては、日本の生活習慣やマナー、特有のルール(騒音、匂い、ゴミの出し方など)についても、適切なアドバイスを行うことでトラブルを未然に防ぎ、安心して生活できる環境を整えることができます。さらに、産業医やカウンセラーのサポートを受けられる体制を整え、普段から「困ったことがあれば気軽に相談してね」といったコミュニケーションを取ることも、外国人労働者にとって大きな安心材料となるでしょう。


労働環境の整備

企業は、労働関係法令に基づいて労働環境を整備する必要があります。適正な労働時間の管理や賃金の支払いはもちろんのこと、外国人労働者が安心して働けるように、就業規則やマニュアルを母国語で提供するなどの配慮も欠かせません。また、労働災害防止のために、安全に関する指示や警告を正確に理解できるよう、日本語教育や安全衛生教育の実施、さらに複数言語での標識の使用を徹底することが求められます。こうした人的な環境整備に加え、設備の保全など物的な環境整備にもコストを惜しまず、不安全なリスクを排除するための措置を講じましょう。また、外国人労働者の受け入れに際しては、日本人労働者向けの研修を実施し、外国人労働者の母国文化や宗教などの多様性を考慮した休暇制度をはじめとする社内制度の見直しを行うことも有効です。


暴力・ハラスメントの防止

職場での暴力やハラスメントは、いかなる場合も断じて許されません。
ハラスメントには、パワハラ、セクハラ、モラハラなど、30種類以上の形態が存在し、その定義は国や文化によって異なります。特に、宗教上の理由でボディタッチを避ける国もあり、日本では何気ないボディタッチが、外国人労働者にとってはハラスメントと受け取られることもあります。こうした無意識のハラスメントを防止するためにも、文化の違いを理解し、全ての労働者に対して定期的な研修を行うことが重要です。特に、経営陣や人事担当者が率先して外国人労働者の雇用に関するコンプライアンスを理解し、それを企業全体に浸透させる取り組みが求められます。また、従業員同士のコミュニケーションを促進する交流会の実施や、社内アンケートを活用して労働者の意識やハラスメントの実態を把握するなど、企業の継続的な努力がハラスメント防止の一助となるでしょう。


キャリアプランの提示

日本の年功序列制度は、成果主義が一般的な国から来た外国人労働者にとっては理解しにくい場合があります。そのため、彼らのモチベーションを維持し、長期的な雇用を促進するためには、明確なキャリアプランと評価基準を提示することが必要です。面接時や定期的な1on1面談では、企業のビジョンや育成方針を具体的に伝え、将来のポストや出世コース、昇進や昇給の基準、さらに1〜5年先の成長予想や企業が期待することについても詳しく説明します。このように、外国人労働者の想いやキャリアプランに寄り添った継続的なサポートを行うことで、彼らのモチベーションやエンゲージメントを高めることができます。結果として、企業内でのキャリアイメージが明確になり、企業への定着にも繋がるでしょう。


まとめ

外国人労働者に対する差別や偏見は依然として存在します。しかし、各企業が積極的にこれらの問題に取り組むことで、外国人労働者が安心して働ける環境を整え、多様性を尊重する企業文化を育むことができるでしょう。万が一差別や偏見が見られた際には、見て見ぬふりをせず、全員が当事者意識を持って問題に向き合うことが大切です。また、傷ついた被害者には相談窓口や信頼できる上司への相談を促すなど、できる限りのサポートを提供しましょう。
少子高齢化が進む中で、外国人労働者は共に日本社会を支える重要な“人財”です。国籍の壁を取り払い、風通しの良い共生社会を築くことが、日本が“選ばれる国”としての未来を切り開く鍵となるでしょう。

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