「育成就労制度」で技能実習制度はどう変わるのか
在留するにあたっての資格制度について
まず、ミャンマー人労働者を受け入れる前に、理解をしておいてほしいことがふたつあります。ひとつは外国人労働者の在留資格制度について。もうひとつは、受け入れの際に知っておかないといけない一連の流れについてです。
外国人労働者が日本で働く際のさまざまな諸問題については前の章でも触れましたが、ここでお伝えしたいのは、日本に在留するための資格制度についてです。
外国人が日本に在留するには在留資格が必要ですが、ここでは技能実習、特定技能、技人国(技術・人文知識・国際業務)の在留資格について触れたいと思います。
これらの在留資格は、それぞれ趣旨・目的が異なります。受け入れが認められている人数や就いていい仕事、日本に在留していい期間、転籍・転職の可否などにも違いがあります。
受け入れ企業も自社でどんな業務に就いてもらうかによって、外国人労働者に取得してもらわなければならない在留資格が決まっています。また、その取得の仕方もそれぞれで異なっているため、取得時には注意が必要です。
『技能実習制度』は2027年以降に新制度へ
ここでもうひとつ注意点があります。現在の『技能実習制度』が新制度になることが決定しました。新制度の名称は『育成就労制度』といい、2024年6月14日、技能実習に代わる新たな制度「育成就労」を新設するための関連法の改正が、国会で可決・成立しました。育成就労制度は2027年の施行が見込まれます。
もともと技能実習制度が創設された目的は「技術移転による国際貢献」とされていました。ところが、実際は、目的通りに運用されるケースは少なく、企業の人材不足解消のための手段となっていることが多く、目的と実態が乖離していました。こうした状況を変えるために、技能実習制度は表向き廃止という形を取り、新制度『育成就労制度』に生まれ変わるという流れになりました。
『育成就労制度』で
技能実習制度はどう変わるのか
技能実習制度の趣旨は「技術移転による国際貢献」です。もう少し詳しく言うと、「日本の技能や技術及び知識を、その国や地域に移転して、その地域の経済発展を担う人材を育成すること」です。一方『育成就労制度』は、人材の育成と確保が目的であり、中小零細企業が人材を確保しやすいようにしようという、人材不足問題解消の意図が加えられました。
従来の技能実習制度1号~3号は廃止となり、新しい制度として、育成就労が創設されることになりました(図9)。
制度が変更されることにより、すでに技能実習生として外国人労働者を受け入れている企業はもちろんですが、これから外国人労働者を雇用しようと検討している企業も、受け入れる時期によっては制度変更の影響を受ける可能性があります。
主なポイントとなるのが、転職・転籍の要件、職種・業務範囲、在留資格の条件、関係機関のあり方、産業分野ごとの人数枠などです。それぞれを具体的に見ていきます。
◆転職・転籍◆育成就労制度の転職と転籍要件
育成就労制度の各内容のうち、有識者会議で最も議論されていたのが、転職に関する要件です。
技能実習制度では、実態は別にしても技術を習得して母国に持ち帰ってもらうという目的があったため、原則3年間転職が禁止されていました。しかし、育成就労制度では、「やむを得ない場合の転籍」の範囲が拡大され、人権侵害や労働条件の相違といった場合で転籍が認められることになりました。
なぜ、そのように方向転換することになったのかと言えば、国際社会からの非難の声が上がってきたからです。転籍や転職は、職業選択の自由を体現するもので、それは人に与えられた権利のひとつです。ところが、技能実習制度では表向き「技術を習得し、熟達してもらう」ことが趣旨にありますが、転籍や転職はそれに反するとのことで認められずにきた経緯があります。とはいえ、実態は人材を囲い込むための手段になっていて、未払いやパワハラなどの問題も後を絶ちません。そうした実態に対して、識者や国際社会からは「奴隷労働」や「現代の奴隷制度」などと揶揄する声が強く聞かれるようになってきて、いよいよ無視できない事態になってきました。
そこで「本人意向による転籍」についても、同一機関での就労が1年を超えていること(分野によっては2年以内の範囲で延長可)、技能検定基礎級合格、日本語能力A1(JLPTN5合格等)、同一業務区分、受け入れ先企業の適切性などの条件を満たしていれば、認められるようになりました。同一業務区分というのは、例えば、同じ農業という産業分野であったとしても、畜産農業と耕種農業であれば、耕種農業で働いている人は耕種農業の別の企業への転籍ということになります。
育成就労制度に代わることで、転職・転籍がこれまでより柔軟化されるようになりますが、ここでもひとつ問題があります。それが地方の人材です。短期間で転職ができるようになれば、人材の待遇がよく、賃金水準も高い都市部へ流れていってしまい、技能実習に頼っていた地方の人材不足の加速、それによる経済的ダメージが大きくなるのではないかという懸念があるので、今後の動向に注視しなければいけない点ではあります。
◆職種・業務範囲◆育成就労制度と特定技能制度適用職種
現在(2024年10月時点)で、技能実習制度が適用される職種・作業はたくさんあります。これが育成就労制度に代わることによって、職種・作業が減ってしまうのではないかと、不安視されていました。
そんな中で決定したのは、基本的には特定技能1号の産業分野・業務区分と同じになるということです。これは、育成就労制度が、特定技能1号の人材の輩出を目的としているからです。
2024年10月現在の特定技能1号の業種は産業分野区分から考えられた12分野となっていますが、日本政府は「自動車運送業」、「鉄道」、「林業」、「木材産業」の4分野を新たに追加し、「工業製品製造業分野(旧名称『素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業』)」、「造船・舶用工業分野」、「飲食料品製造業分野」の3つの既存の分野については新たな業務の追加を決定しました。
◆在留資格の条件◆特定技能1号への移行を目的とする
技能実習制度では、対象となる外国人は技能実習計画を定めたうえで、就労を行っていました。技能実習制度がなくなることで、技能実習計画がなくなるのかというとそうではなく、「対象となる外国人ごとに育成就労計画を定めたうえで、計画的に特定技能1号の技能水準の人材に育成をしていくことを目指す」として、計画型の在留資格になることが明記されました。これは、「技能実習制度よりも幅広くして、特定技能制度における業務区分と同一としつつ、当該業務区分の中で習得すべき主たる技能を定めて計画的に育成・評価を行う」とあり、特定技能制度の業務区分の中で主たる技能を定めて育成就労計画に基づいて育成・就労を行うことが想定されています。
また、育成の目標については、特定技能1号へ移行する際の経過措置である「相当講習」の選択肢がなくなりました。これによって、特定技能1号へ移行することを目標とする場合、3年~4年で国際交流基金日本語基礎テストA2相当(日本語能力試験N4等)へ合格することが必須となります。
◆関係機関のあり方◆改組して厳格化される
技能実習制度では、技能実習生の募集や受け入れに関する調整や各種手続きを行う機関として監理団体があります。これが育成就労制度に代わることにより、監理支援機関に名称が変更されることになりました。育成就労制度においては監理支援機関の要件が厳格化され、それをクリアしたうえで、監理支援機関としての許可を取得しなければいけません。既存の技能実習監理団体についても、監理支援機関としての許可を再取得する必要があります。
また、特定技能については、「支援業務を他に委託する場合の委託先を登録支援機関に限ることとしたうえ、登録支援機関及び受け入れ機関の要件の厳格化・適正を行う」とされ、支援業務を委託する場合は、登録支援機関の独占業務となることが見込まれます。送り出し機関としては、2国間取り決め(MOC)を新たに作成し、悪質な送り出し機関排除に向けた取り組みを強化すると共に、原則としてMOC作成国からのみ受け入れるという点です。MOCの締結国からしか育成就労を受け入れないということになると、一番影響を受けるのが中国でしょう。中国は基本的にMOCがないので、育成就労制度が始まるまでには、今後の日本と中国間での協議が行われるでしょう。そこで中国がどのような対応していくのか、その進行を注視する必要があります。
そして、外国人技能実習機構は、外国人育成就労機構に改組となり、労働基準監督署、地方出入国在留管理局などとの連携を強化して、育成就労外国人への相談支援業務を行うようになります。
産業分野ごとの人数枠の増枠
特定技能制度が始まった当初、受け入れ上限目標として、34万5150人と設定していました。2024年に受け入れ上限の見直しが行われ、2024年度から5年間で82万人に受け入れ枠を拡大しました。
育成就労制度施行までの移行期間
育成就労制度の施行は2027年になる見込みで、「育成就労」制度開始後、3年間の移行期間を設ける方針も挙がっており、新制度への完全移行は2030年頃になると予想されます。 現在の技能実習生については、「技能実習」の在留資格で3年間は在留できると考えられます。
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