技能実習「宿泊」|外国人技能実習生を宿泊業で雇用するためには
この記事では、外国人技能実習生を宿泊業で雇用することについて解説しています。 日本の宿泊業界は、人手不足は深刻化しています。 新型コロナウイルスの世界的な流行とそれによる規制のため、現在は観光業全体が低迷していますが、コロナ収束後に規制が緩和されれば、急速に外国人旅行者数は増加していくことが予想されます。
目次
宿泊業界の人手不足
日本の宿泊業界において、人手不足は深刻化しています。
観光庁による調査では、2018年の宿泊業界の有効求人倍率の平均値は、6.15倍となっています。
中でも飲食物給仕係は7.16倍となっており、人手不足が際立って深刻な状況となっています。
低賃金や長時間労働による若者のサービス業離れが、人手不足の原因と言われています。
人手不足のもう一つの原因は、外国人旅行者数の増加です。
日本への外国人旅行者数は年々増加しており、2019年の訪日外国人旅行者数は3,188万人となり、過去最高を更新しました。
新型コロナウイルスの世界的な流行とそれによる規制のため、現在は観光業全体が低迷していますが、コロナ収束後に規制が緩和されれば、急速に外国人旅行者数は増加していくことが予想されます。
それに伴い英語での接客など、必要となるスキルが増えていることも日本人の雇用減少につながっています。
この深刻化する人手不足の中で必要となる制度に、「技能実習制度」があります。
以下では、外国人技能実習生を宿泊業で雇用することについて述べます。
技能実習制度
技能実習制度は、国際貢献のために開発途上国などの外国人を一定期間雇用して日本の技能を移転する制度です。
受け入れ機関(技能実習生を雇用する企業)と技能実習生は雇用関係にあり、日本の労働関連法令が適用されます。
この制度による外国人技能実習生の雇用が増加することで、日本の人手不足の緩和も期待できます。
宿泊業における「技能実習制度」では、「技能実習1号」と「技能実習2号」での受け入れが可能です。
在留期間が1年の「技能実習1号」を経て、修了試験に合格することで、「技能実習2号」への移行が可能です。
宿泊業における「技能実習2号」制度の追加は2020年2月25日より開始され、1号を含め通算3年間「技能実習生」として、日本の宿泊業界での活動が可能となりました。
技能実習外国人の転職は不可となっているため、上記の場合3年間同じ企業での実習となります。
夜勤においても不可となっており、賃金は最低賃金以上となります。
また、「技能実習2号」を良好に修了した後は、無試験で「特定技能1号」への移行が可能です。
「特定技能1号」での在留期間は5年です。
よって、外国人は日本の宿泊業界においては通算8年間働けるということになります。
技能実習「宿泊」の対象職種
第1号技能実習ではホテルや旅館の宿泊施設における以下の作業が可能となっています。
- 利用客の送迎作業
- 滞在中の接客作業
- 会場の準備・整備作業
- 料飲提供作業
- 利用客の安全確保と衛生管理
- 安全衛生業務
第2号技能実習では、1号の作業等を主体的にできることに加えて、
上司の指示を受けて「チェックイン・チェックアウト」の作業ができます。
技能実習「宿泊」の在留資格取得
冒頭で述べた通り、技能実習「宿泊」分野では、「技能実習1号」と「技能実習2号」の外国人技能実習生の受け入れが可能です。
それぞれの在留資格取得要件は以下となっています。
技能実習1号の取得要件
「技能実習1号」では、入国してすぐに、日本語や業務に関しての講習(入国後講習)を通常1ヶ月間受ける必要があります。
また、特定技能制度と異なり、外国人が「技能実習1号」在留資格の取得のための試験はありません。
「技能実習1号」の在留資格を取得するには、以下の項目をすべて満たす必要があります。
- 技能実習生が18歳以上であること
- 帰国後に本制度で修得した技術を活かした業務に従事することを予定していること
- 企業単独型技能実習の場合は、派遣先企業の海外事業所、もしくは海外に本拠地を置く提携先企業の職員であること
- 外国人本人が過去に第1号技能実習を利用したことがないこと
「団体監理型技能実習」の場合は上記に加えて以下の事項を満たす必要があります。
- 本国で技術実習を受けたいと考えている業務に従事していた経験がある、もしくは「団体監理型技能実習」を利用しなければならない特別な事情があること
- 本国、もしくは住所をおく地域の公的機関から推薦を受けていること
技能実習2号の取得要件
「宿泊」分野での「技能実習1号」を良好に修了した外国人技能実習生は、「技能実習2号」への移行を選択できます。
「技能実習2号」取得の条件は、1号の修了と、宿泊業技能試験センターが実施する「技能実習評価試験」に合格することです。
2021年6月に行われた「第2回技能実習評価試験」の受験者数は442名、合格率は47.96%となっています。
試験は日本各地で2ヶ月に1回程度開催されています。
今後はコロナウイルス感染症の流行により急な延期や中止になることも予想されるため、外国人雇用を検討している受け入れ企業はこまめに情報を確認しておくことをおすすめします。
受入れ方式
外国人技能実習生を企業が受け入れる方式は、「企業単独型」と「団体監理型」があります。
下記の通り、「団体監理型」で技能実習生の受け入れをすることが一般的となっています。
「企業単独型」
日本の受け入れ企業等(実習実施者)が海外の法人や取引先企業の外国人職員を直接受け入れて、実習を実施する方式です。
自社で技能実習生を受け入れ、監理まで行うため、海外に拠点のある大企業向けのものとなっています。
企業単独型による受け入れの場合は、「技能実習イ」という在留資格になります。
「団体管理型」
事業協同組合や商工会などの営利を目的としない団体(監理団体)が実習生を受け入れ、受け入れ企業等(実習実施者)で実習する方式です。
技能実習の受け入れを監理団体に任せることができるので、海外に拠点のない受け入れ企業にとっては技能実習生の受け入れがしやすくなっています。
現状では、技能実習生の受け入れ企業の約97.2%はこの「団体監理型」方式で受け入れを行なっています。
団体管理型による受け入れの場合は、「技能実習ロ」という在留資格になります。
受入れ企業に求められること
労働条件の明示(労働基準法第15条)
受け入れ企業は、母国語など技能実習生が理解できる方法で労働条件を明示しなければなりません。
技能実習計画の認定
技能実習を行わせようとする者(実習実施者)は、外国人技能実習機構へ「技能実習計画認定申請書」を提出し、その技能実習計画が適したものであるという認定を受ける必要があります。
この認定は、技能実習計画の適切性担保のためとなります。(法第9条)
技能実習生ごとに、第1号、第2号のそれぞれの区分で認定を受ける必要があります。
申請書のフォーマットは「外国人技能実習機構」からダウンロードが可能です。
技能実習計画認定申請は必要書類も多くかなり複雑ですので、経験豊かな監理団体に依頼して効率よく行うことをおすすめします。
実習実施者の届出
実習実施者は、技能実習を開始したときは、遅滞なく、外国人技能実習機構へ「実習実施者届出書」を届け出なければなりません。
届出先は、認定通知書の交付を受けた機構の地方事務所・支所です。
責任者、指導員の配置
実習を行う受入れ企業は、技能実習計画認定申請時に、技能実習責任者、技能実習指導員、生活指導員それぞれ1 名以上配置する必要があります。
技能実習の効率化と、技能実習生が安心して実習に取り組める環境を整えるためとなります。
受入可能人数制限
外国人技能実習制度では、常勤職員数により1年間に受け入れることのできる技能実習生の人数に制限があります。
技能実習か特定技能か、そのメリット・デメリット
宿泊業界で外国人を雇用する場合、技能実習を選ぶべきか、特定技能を選ぶべきか、それぞれメリット・デメリットがあります。
宿泊業の現状
現時点では、コロナ蔓延防止対策としての水際対策が強化されていますので、外国人観光客の入国は原則としてはできません。また緊急事態宣言の発出などの影響で国内旅行客も低迷し、宿泊業界の需要は激減しています。
そのような状況下で、宿泊業において技能実習生や特定技能外国人を雇用するニーズは、現時点では完全に消滅しています。
コロナ収束後の宿泊業界
しかし、今後コロナワクチンの普及に伴い、先進国を中心として全世界的に人の移動が緩和され始めます。疲弊した国内経済を立て直すためには、おそらく総選挙後の2021年11月頃より様々な経済対策が打ち出されることでしょう。当然観光業の復活も意図され、外国人観光客の入国緩和も始まります。そうすると突然、再び日本にも外国人観光客が溢れ始めます。
しかしコロナの影響で宿泊客が激減し、宿泊業界は雇用を絞りに絞ってきました。
そのため外国人観光客が戻って来たときの人的対応力に欠けており、宿泊業界は突然の人手不足に陥る可能性が大です。
コロナ後の宿泊業界が、技能実習を選ぶべきか、特定技能を選ぶべきかについては、この突然の人手不足にどのように対応するかがポイントになります。
宿泊業界における技能実習のメリット
- 技能実習は無試験で日本に来られるため、人材が豊富に集まること(特定技能より人気がある)
- 突然の人材難に対して、来日まで約半年かかるが、人数的な対応が十分可能であること
- 一般的に最低賃金レベルで雇用できること(特に地方では雇用しやすい)
- 転職されないので、3年間安定した雇用ができること
宿泊業界における技能実習のデメリット
- 認定を受けた技能実習計画に従った実習を行う必要があり、任せられる仕事の制限が大きいこと
- 制度上さまざまな義務があり、実習実施者側に手間と費用がかかること
- 雇用できる人数に制限が大きいこと
宿泊業界における特定技能のメリット
- 技能実習に比べて制限が少なく、任せられる仕事の範囲が大きいこと
- 実習実施者側に手間と費用があまりかからないこと
- 雇用できる人数枠が大きいこと
宿泊業界における特定技能のデメリット
- 日本語試験と技能評価試験の2つの試験に合格する必要があるため、外国人にとっては技能実習よりかなりハードルが高いこと。つまり外国人にとって技能実習のほうに人気が集まり、特定技能候補者が集めにくいこと
- 日本人と同等以上の賃金を支払う必要があること
- 地方では人を集めにくいこと(都会を望む外国人が多いこと・地方は都会より給与水準が低く不人気であること)
- コロナ後の突然の需要増加に対して、十分に人が集められないことが予想されること
- 厳しい労働環境だと転職される可能性があること
結論
以上を比較検討しますと、コロナ後の宿泊業界で外国人を雇用する場合、技能実習をまず選択し、技能実習3年経過後に特定技能に移行することが望ましいと思われます。
まとめ
技能実習は国際貢献が目的の制度となります。
特定技能制度とは雇用の目的が異なりますが、コロナ収束後の宿泊業界にとっては、欠くことのできない制度でもあります。
技能実習と特定技能のメリット・デメリットを十分把握していただき、技能実習制度を利用する場合は、技能実習から特定技能への移行なども見据えながら、転職せず長く働きたいと外国人に思ってもらえるような職場環境作りがとても大切です。
この記事が、宿泊業界の皆様のお役に立てること、そして宿泊業界がコロナに打ち勝ってみごと復活を遂げることをお祈り申し上げます。
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