技能実習制度は廃止するべきか? 特定技能に統合するべきか?

技能実習制度に対しては多々問題が指摘されいます。 技能実習制度を廃止すべき、新在留資格「特定技能」に統合すべきという意見についてはどのように決着するかを予想するとともに、外国人を受け入れている企業の人事部門ができることについてまとめました。

技能実習制度は廃止するべきか? 特定技能に統合するべきか?

技能実習制度に対しては多々問題が指摘されており、他国や人権団体、マスコミなどから奴隷制度だと揶揄されるケースもあります。
そのような中で、日本政府は今後技能実習制度をどうしていくべきか、新在留資格「特定技能」に統合すべきという意見についてはどのように決着するかを予想するとともに、受け入れ企業の人事部門ができることについてまとめました。

目次

  1. 技能実習制度の目的
  2. 技能実習制度の現状と問題点
    1. 技能実習生の失踪
    2. 労働基準法違反の例
    3. 業務内容の乖離
  3. 技能実習制度を廃止すべきだという意見の数々
  4. 技能実習制度を残すべきだという意見の数々
  5. 技能実習制度の今後について
    1. 日本の技能実習の実態を正しく技能実習候補生に事前に説明をおこなう送り出し機関の選定と制限
    2. きちんとした技能実習ができる実習実施者のみの認定。および、実際に運用がなされているかの監査と問題がある場合の徹底した行政指導例
  6. 企業人事としてできること
  7. まとめ

技能実習制度の目的

技能実習制度は発展途上地域に対し、国際貢献を行うために日本が導入した制度です。日本の技術または知識の移転を「人づくり」を通して行うのが技能実習制度です。
そのため、技能実習は国内の人手不足を補う安価な労働力の確保等として使われることがないように、基本理念として技能実習法(2019年11月施行、外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)により次が決められています。

  • 技能等の適正な修得、習熟又は熟達のために整備されていること
  • 技能実習生が技能実習に専念できるようにその保護を図る体制が確立された環境で行われること
  • 労働力の需給の調整の手段とされないこと

技能実習制度の現状と問題点

技能実習は労働力の確保のみを目的として実施してはならないにもかかわらず、企業・外国人ともに経済的な利益を得る目的で制度を利用していることが多いところに根本的な問題点があります。

まず多くの企業(実習実施者)は、安価で3年間安定的な労働力を確保する目的で技能実習を利用しています。
※技能実習では、1年間(技能実習1号のみ)、3年間(技能実習1号と2号)、5年間(技能実習1号、2号、3号)在留することが可能ですが、技能実習3号はあまりにハードルが高く、また在留が1年では日本に来るために支払った料金を回収できないことから、技能実習は3年間在留するケースがほとんどです。

一方外国人は、母国よりも高額な収入を得る目的で日本に技能実習に来る人がほとんどです。
つまり、技能実習制度は「発展途上地域に対し国際貢献を行う」という崇高な目的とは乖離した意図で運用されている実態となっています。

また、技能実習においては次のような問題も起こっています。

技能実習生の失踪

  • 厚生労働省の資料によると、令和元年10月末時点での技能実習で日本に滞在する外国人の数は約38.4万人で、うち2%が失踪しています。

労働基準法違反の例

  • 実際に労働者に対して時間に対する賃金ではなく、月平均所定労働時間分の賃金を支払っていた。
  • 時間外労働協定の締結なしに時間外労働を行わせており、最長で1ヵ月74時間58分の時間外労働をさせていた。
  • 週40時間を超える労働時間に対して割増賃金を支払っていなかった。など

業務内容の乖離

  • 建設業務と話を聞いて日本にやってきたが、実際に作業を行ったのは原発の除染作業だった。など

技能実習制度を廃止すべきだという意見の数々

[社説]技能実習は速やかに廃止を:日本経済新聞2021年7月26日

人手不足を補うため海外から人材を受け入れるだけ受け入れ、劣悪な労働環境は放置というのでは無責任のそしりを免れない。外国人技能実習制度のことだ。
2020年末の外国人技能実習生の数は15年末の約2倍になった(写真は外国人技能実習生)
いっこうに改善がみられないこの制度はすでに行き詰まっている。速やかに廃止し、外国人材の受け入れ体制を立て直すべきだ。
会計検査院が、実習生の受け入れ企業に対する外国人技能実習機構の実地検査の状況を公表した。2019年4~9月に起きた実習生の失踪のうち2割にあたる755件で、同機構は20年3月末時点でも企業の労働環境などを調べる実地検査をしていなかった。
うち557件では、実地検査の基礎資料となる賃金台帳やタイムカードも入手していなかった。
技能実習制度の監督機関として17年に発足した同機構は、調査の人員不足が指摘されてきた。業務効率化などで実効性のある手を打たず、役割を十分に果たしてこなかった責任は重い。
実習生は年々増え、20年末はコロナ禍で前年末より減ったものの、15年末の約2倍の37万8千人を数える。
一方で違法な長時間労働や賃金不払いなども増え続け、19年はこうした労働関係法令違反が6796事業所でみつかっている。
国際貢献の名のもとに、実習生を安い労働力ととらえる建前と本音の使い分けは、もはや限界だ。世界からも技能実習制度は人権侵害の問題があるとして批判されている。廃止し、19年に新たな外国人材の受け皿として設けられた特定技能制度に一本化すべきだ。
問題の根源は、海外からの労働力の調達を優先し、外国人の働く環境の整備や生活支援を二の次にしてきた政府の姿勢にある。
政府は外国人材の生活支援策をまとめ、改訂を重ねている。日本語学習や子どもの就学の支援をはじめ多彩な項目からなるが、問題は実行のスピードの遅さだ。
支援策が掲げる「共生」への道のりは遠い。外国人を単に労働力とみる意識を除くことが先決だ。

(社説)技能実習は速やかに廃止を: 日本経済新聞

[社説]技能実習生 応急措置後を見すえよ:朝日新聞2020年4月30日

あくまで新型コロナウイルスの感染拡大に伴う応急措置である。多くの矛盾と問題をはらむ制度自体をなし崩しに温存することがあってはならない。
あらかじめ働く場を決め、原則として転職できない外国人技能実習制度で、政府は職種の変更を認める仕組みを導入した。
観光・製造業などに就いていた実習生が休業に伴って職を失う一方、入国規制で新たな実習生が来日できなくなった影響で農漁業や介護分野では人手が足りない。そんな実習生と事業者を政府がつなぎ、向こう1年働ける在留資格を認める。
コロナ禍は世界に広がっており、仕事をなくしながら帰国もままならない実習生は少なくあるまい。放置するわけにはいかない。この手当てで助かる事業者がいるのも確かだろう。
ただ、技能実習をめぐっては、低賃金労働や長時間の残業、雇用主による暴力など、様々な人権侵害が後を絶たないことを忘れてはならない。
政府は実習生を受け入れてきた事業者に対し、まずは雇用の継続を指導すべきだ。どうしても難しい場合は、本人の希望に基づき、働き手を求める事業者と結ぶ。これまでの受け入れで違反がないことが前提で、法令を守ることを確約させる。そうした手順をしっかりと踏む必要がある。
職を変える実習生は、都市部から地方へ移るケースが多いと見られる。コロナ感染は大都市圏で目立つだけに、受け入れ先で不安をもたれる恐れもある。事業者の近隣住民を含めた周知と合意形成が欠かせない。
最長1年のつなぎ期間を経た後、実習生は政府が昨年4月に新設した「特定技能」制度に移ることとされた。人材育成を通じた国際貢献を掲げる技能実習とは別に、外国人労働者の受け入れ拡大を狙った試みである。
この特定技能制度も、基本的に最長5年の滞在後は帰国させ、家族の帯同を認めないなど問題が多い。政府・与党が拙速に導入したこともあり、昨年末時点で2千人にも達しない。
一方で技能実習生は増え続けており、約41万人に及ぶ。事業者が圧倒的に強い立場にあるだけに、制度を残す限り、人権侵害の根絶は困難とみるべきだ。
コロナ禍は、日本社会が外国人の働きに頼る現状を改めて浮き彫りにした。労働力ではなく、生活者として受け入れる。この基本に立って、官民の関係者には技能実習生の暮らしぶりへの目配りを怠らないでほしい。その上で、今回の応急措置を制度の縮小・廃止への起点としつつ、海外の人材にかかわる仕組み全体の見直しを急がねばならない。

(社説)技能実習生 応急措置後を見すえよ:朝日新聞デジタル

技能実習制度を残すべきだという意見の数々

経済同友会 『多様な人材の活躍に向けた現状認識と課題~兼業・副業の促進と特定技能制度の定着などを中心に~』 2020年7月 抜粋

(4)特定技能制度の課題
1 特定技能制度と技能実習制度の接続
現行の特定技能制度は技能実習制度の移行を前提とした制度である。これに対して、本会は提言で、国際貢献を目的とする技能実習制度と労働力不足への対応策として創設された特定技能制度では目的が異なるとし、両制度の本来の目的を踏まえ、両制度は接続させず、それぞれ独立した制度として運用すべきと主張している。また、本会は技能実習制度については、実習のニーズの状況を踏まえ、廃止も視野に入れた制度の見直しが必要との立場を取る。
特定技能制度に関係する企業、団体からヒアリングを実施したところ、本会の 意見に対して、特定技能制度の登録支援機関である東洋ワークの須佐社長からは、 賛同する意見を得た。一方で、技能実習制度の監理団体で特定技能制度の登録支援機関でもある国際労務管理財団(IPM)の伊瀬専務理事は「両制度を接続させず」「技能実習制度の廃止も視野に入れる」という本会の意見に対して反対を表明し、両制度を密接に接続させる工夫を加えて、それぞれの改善を図っていくべき、とした。また、会員企業へのアンケート調査によれば、特定技能制度と技能 実習制度の接続・併存に対して、制度を複雑化しているとの意見、また現行の技能実習制度の問題点として、受入れ企業の待遇の低さを指摘する声があった。

<特定技能制度登録支援機関の意見(東洋ワーク 須佐社長)>
〇特定技能制度と技能実習制度は独立した制度として運用すべきという同友会の提言は、まさにその通りである。技能実習制度で3年実習した後、そのまま特定技能制度に移行し、5年間日本で働くというのはおかしい。
〇日本の技能実習制度は、労働と技能を学ばせることが混在してしまっている。単純労働者と技能実習生とは区別すべきである。特定技能制度についても、1号と2号を分けるのはいかがなものか。労働は単純労働として、特定の国から受入れ人数の上限を決めて受け入れるべきである。特定技能制度については、1号と2号の区分を撤廃すべきである。2号のみ家族帯同となっているのは制度に偏りがある。特定技能制度については滞在期間を10年としたうえで、家族帯同可能とし、留学生の在留資格と同様、家族は18歳以上であれば週 28時間まで働いてよいとすべきである。

<技能実習制度監理団体・特定技能制度登録支援機関の意見(IPM 伊瀬専務理事)>
〇特定技能制度を技能実習制度と独立した制度として運用するという提言には、反対。二つの制度は「技術移転・国際貢献」と「人材不足を補う」という共通の目的に統合する方向で、当面、両制度の適正な運用を図りながら、両制度を密接に接続させる工夫を加えて、それぞれの改善を図っていくべき。
〇技能実習制度は「政策転換」を反映した制度の発展方向で見直すべき。まず技能実習に「人材不足を補う」という目的を加え、人手不足を補う必要が客観的に認められる業種に門戸を広げ、海外諸国の人づくりに貢献しながら、人手不足を解消し、産業を発展させる方向に制度改正することを期待したい。
〇技能実習は技能を学び、日本の仕事の進め方や社会生活を経験するいわば「義務教育」として、さらに、より高度な技能を有する人材について、家族の帯同も認める「特定技能」として位置づけていくのがよい。

多様な人材の活躍に向けた現状認識と課題
~兼業・副業の促進と特定技能制度の定着などを中心に~

日本政府の外国人材政策に関する第7回木村義雄先生意見交換会の質疑応答

意見交換会でのご意見・ご要望
日本政府としては、将来的に技能実習から特定技能にシフトチェンジしていく方針ですか?あるいは今後も並行していくのですか?

木村義雄先生の回答
技能実習は様々な問題点がありました。
特に海外の人権論者の方から、技能実習は技能習得ではなく労働ではないか。しかも奴隷労働だという大変厳しいご意見がありました。
そのことを受けて、2年前から特定技能という新しい制度をスタートしました。
技能実習の目的は、国際貢献であり、日本で勉強をしてしっかりと仕事を学び、今後母国で活躍していただくというのが大前提です。
それに対して、特定技能というのは正面から労働として入国していただこうという制度です。
将来的には、技能実習は国際貢献の1つとして純化されていくと考えます。もちろん直ちになくなるわけではなく、徐々に純化されていくでしょう。
そして特定技能は、正規の労働として行っていただくということです。
特定技能に関しては2年後の見直しを本年度から(2021年4月から)スタートする予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で1年延びました。
ですので、来年の4月から(2022年4月から)特定技能においては様々な見直しが行われます。
技能実習に関しては、(2019年の)5年後の見直しが予定されています。すでに2年経っていますが、コロナで1年伸びましたので、今から4年後(2025年)の見直しの中で技能実習をどのように純化していくかを決めていきます。
直ちに、様々なことが変化するのではなく見直しの中で今後の方針を決めていくということであります。

日本政府の外国人材政策に関する第7回木村義雄先生意見交換会の質疑応答より

技能実習制度の今後について

目的は崇高な技能実習制度ですが、本来の目的が達成されないのであれば、やり方が間違っているか、そもそもできないかのどちらかになります。上記の課題の解決には少なくとも次の打ち手が必要になると思われます。

日本の技能実習の実態を正しく技能実習候補生に事前に説明をおこなう送り出し機関の選定と制限

日本へ技能実習生を送り出すことで技能実習生から手数料を得ているビジネス目的の送り出し機関が一大ビジネスとして現地で成り立っているケースが多々あり、そのような送り出し機関では、ブローカーなどに多額の手数料を支払い、技能実習生希望者を募集しています。ブローカーは日本の技能実習生の知識があるわけでもなく、正しくない情報も含めて希望者を口説いているケースが多いと思われます。結果、実態とはかけはなられた収入が得られると夢をもち、どのような技術が得られるかもわからないまま多額の借金を抱えて来日することになります。

きちんとした技能実習ができる実習実施者のみの認定。および、実際に運用がなされているかの監査と問題がある場合の徹底した行政指導

計画認定された技能実習が行われているか、実際に技術は身についたかの評価に加えて、労働力補完の目的と言えないかを評価する仕組みが必要だと思われます。すでに、他国や人権団体、いくつかのメディアからは上記のような実態から奴隷制度と揶揄されており、もぐら叩き的な対応ではなく、制度および運用の見直しが必要だと思われます。

前者は日本だけでは対応が難しく、ブローカーの排除についても含めると日本のみで対応できません。前述したとおり、悪質な送り出し機関やブローカーは巧妙で、送り出し国政府が罰したとしても、その関連会社が現れ、同じことの繰り返しになっているようです。

一方で後者については、日本政府が本腰を入れ、制度を改善し外国人技能実習機構による運用を厳格化すれば、自国でなんとか解決できます。
技能実習制度の問題点は、すべての技能実習現場で発生しているわけではありません。
一部の悪質な実習実施者や、それを野放しにする悪質な監理団体がその問題のほとんどを発生させています。

2021年7月2日に私達が主催して開催した「日本政府の外国人材政策に関する第7回木村義雄先生意見交換会」でも、多くの監理団体や人材会社から技能実習制度の存続について質問がありました。
前自由民主党外国人労働者等特別委員会委員長の木村義雄先生も「技能実習制度の純化」が必要だと回答されておられます。
つまり、技能実習制度の原点に立ち返り、国際貢献と技能移転の制度に立ち戻ること、一切の法令違反を認めないように外国人技能実習機構の運用を厳格化することで、本来の技能実習の姿に戻し、特定技能制度との共存を図ることが不可欠と思われます。

企業人事としてできること

外国人を受け入れる企業の人事部門としては、節度ある「技能実習」の利用が必要です。「技能実習」について制度通りの遵法な運用を行わなければ、奴隷契約と言われてしまうレピュテーションリスクがあります。制度をきちんと設計し、万一の時にも世の中に対して胸をはって、「うちの企業は大丈夫」と言える状態にしておきましょう
すでに技能実習制度を利用しているのであれば、特に問題となっている実習の超過時間はどれほどなのか、超過時間分についての法定労働時間超過分に該当する部分については1分単位で全額残業代が支給されているか、割増残業代は支払われているかを再度確認しましょう。
最近では技能実習生の現状を知った様々な相談を受ける機関ができており、支払われていない賃金については実習終了が近づいてきたらまとめて請求を行うような取り組みも行っている機関もあります。
技能実習の残業代不払いから労働基準監督署の査察が入り、結果、全従業員への未払いが発覚し、全員分の支払いが必要となったケースもありますので、今一度見直すべきだと思います。

また、技能実習生が本当に満足して実習をしているかどうかを再確認する必要もあると思います。
ある監理団体の調査では、実習先の技能実習生の半数以上が現状に不満足で、「できることなら転職したい」と回答したとのことです。
これは由々しき問題であり、今一度監理団体と実習実施者は、技能実習生一人ひとりに対して、母国語の通訳を介して「現状の問題点はあるか」「不満はあるか」「どうしてほしいか」を綿密に聞き取り調査し、技能実習生の満足度向上について早急な対策、改善を講じるべきと思います。

まとめ

技能実習制度は日本だけで解決できる問題と、日本だけでは解決できない問題があり、正しく運用されるには多くの課題を解決しなければいけない現状にあります。
日本政府も特定技能についてはこれからも対応できる業務分野を広げていく考えを出しており、これからはその流れのなかで、特定技能・技能実習を正しく活用していくことが重要になってくるでしょう。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。制度を利用する際の参考になれば幸いです。

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