技能実習生の失踪問題|防止策は?起きてしまったときの対応について
日本で働く技能実習生は年々増える一方で失踪する人も増えています。この記事では、技能実習生の失踪理由や防止方法、起きてしまった時の対応について解説します。
日本で働く技能実習生は年々増えていますが、それに伴い、失踪する人も増えています。失踪すれば、「技能実習」の在留資格は取り消しとなり、不法滞在となってしまいます。日本にいられなくなる危険を冒してまで、技能実習生が失踪するのはなぜでしょうか。
この記事では、技能実習生の失踪理由や防止方法、失踪してしまった時の対応について解説します。
目次
技能実習生が失踪する理由とは?
技能実習生の失踪率は、全体の約2%です。受け入れ数が年々増えているのに伴い、失踪数も増えており、2016年に5,058人、2017年に7,089人、2018年に9,052人、2019年8,796人となっています。
技能実習生が失踪してしまう理由は大きく分けて2つあり、企業側の待遇の問題と、実習生側の経済的な問題があります。
参考:法務省 報告書「今後の出入国在留管理行政の在り方」
企業側の待遇の問題
賃金の未払いや人権侵害、劣悪な労働環境が原因で、技能実習生が失踪してしまうことがあります。技能実習法では不当な待遇を禁止していますが、それに違反する企業もあります。
賃金の未払いや労働基準法、安全衛生法の違反、出入国管理法の違反などにより、実習の認定を取り消された企業は、2019年に約20社、2020年に約90社ありました。
賃金の未払いにもさまざまなケースがあります。
もともと約束していた給料を払わないという悪質極まりないものから、月給制なのに天候などの理由で勤務がなかったときに減額する場合、勤務したのに勤務しなかったことにする場合、拘束時間なのに理由をつけて勤務外にする場合、残業代を払わない場合、残業代を減額する場合などさまざまです。
人権侵害もさまざまあります。
国籍や宗教、肌の色や性別による差別。妊娠時の解雇。暴言などのパワーハラスメントなど、常識を持たない中小零細企業経営者やその従業員により不当な扱いを受けるケースがそれにあたります。
また人権というワクを超えるケースもあります。不当な解雇、暴力などです。
劣悪な労働環境の例は、長時間労働の強要、休暇を与えない、同僚によるいじめや暴言、寮が狭い・汚いなどがあります。
実習生側の経済的な問題
技能実習生は自国の送り出し機関に、日本語講習や寮の費用を支払っています。中には100万円以上を支払い、日本に来る人もいます。技能実習生が最も多いベトナムでは、平均月収が約3万円と言われおり、送り出し機関に支払う費用は、借金をしているケースも多いです。日本での技能実習生の給与が思っていたより低い場合、借金を返せない場合もあります。そのため、もっと稼ぐために悪徳ブローカーの誘いに乗って失踪する場合があります。技能実習生が実習以外の職につくのは違法ですが、それをわかっていても、借金の返済や母国への仕送りのため、失踪して不法就労を行うケースが増えています。
技能実習生の失踪を防止するには?
技能実習生の失踪を防ぐためには、採用前に技能実習について理解してもらうとともに、実習先のの労働環境や住環境、相談体制の整備が大切です。ここでは、失踪を防ぐポイントについて説明します。
適正な送り出し機関を利用する
悪質な送り出し機関の中には、実習生から渡航費や失踪した場合の保証金を徴収しているところもあります。技能実習法ではこれらの徴収は違法のため、法律を守り、適正な額を徴収する送り出し機関を選びましょう。外国政府によって認定されている送り出し機関は、外国人技能実習機構のホームページに掲載されています。
しかし「適正な送り出し機関を選ぶ」ことこそが、なによりも難易度が高いのも事実です。なぜかというと、技能実習生受け入れ企業(実習実施者)は選んだ監理団体が指定する送り出し機関を選ばざるを得ないからです。
また監理団体にとっても「適正な送り出し機関を選ぶ」ことはとても難しいです。なぜなら送り出し機関はどこもいいことばかり言って、実態を隠しているところが多いからです。視察や面接に行ったときだけ、立派な送り出し機関であるように見せかけるところも多いです。そして送り出し機関による過剰な接待やバックリベート攻撃で、正常な判断を失ってしまう監理団体も多いのです。
良い監理団体を選ぶ
採用で良い人材を見分ける工夫を行い、日本に来た後のサポートもしっかりしている監理団体を選びましょう。長年の実績がある監理団体では、トラブル対応に慣れています。技能実習生と企業との間に入って問題を解決してくれるところや、常駐の通訳を置いていて、技能実習生が相談しやすい環境を整えている監理団体を選びましょう。
また監理団体には「優良」と「普通」の監理団体があります。できれば優良な監理団体を選びましょう。優良な監理団体は「一般監理事業」と呼ばれ、普通の監理団体は「特定監理事業」と呼ばれます。優良な監理団体は、国の機関である外国人技能実習機構の厳しい審査基準をクリアしています。審査基準はポイント制で、優良認定を受けるためには一定の点数を超えなければなりません。また基準点数を満たさなくなると優良認定が取り消しになるというとても厳しい審査基準をクリアしていますので、かなり信頼できると言えます。
技能実習生に、待遇の説明をしっかり行う
企業が正当な給与を支払っていても、「思っていたより少ない」と感じる技能実習生もいるようです。これは、実習生が額面の給与と手取りの金額の違いを理解していないからです。実習生に待遇を説明する際には、日本の法律に従い、給与から雇用保険や健康保険、国民年金などが控除されることを説明しましょう。また、家賃や水道光熱費、インターネット使用料を給与から差し引く場合には、丁寧な説明を行った上で賃金控除の協定書を結びましょう。後のトラブルを避けるため、控除される費用は適正であることや、控除後の手取りがどのくらいになるのかを、あらかじめ説明しておくことが大切です。
面接時、実習生に借金の額や返済計画を確認する
技能実習生は自国の送り出し機関に多額の費用を払っています。支払う費用を借金している場合、その額と返済計画を確認しましょう。例えば、実習生として働き始めてから月に15万円返済する計画の場合、給与の控除額と生活費を考えれば、とても現実的ではありません。借金を早く返済したい気持ちから、失踪して不法就労するケースもあるため、面接時に確認しましょう。
実習生の待遇や生活環境を整え、相談しやすい体制を整える
技能実習生の失踪は、賃金や残業代の不払い、パワハラなどが原因のこともあります。当たり前のことですが、給与は規定の額を給料日に振り込み、住環境を整えてください。また、技能実習生が相談しやすい体制を整えることも必要です。給与や待遇に問題がなくても、「帰国したくない」という理由で失踪する実習生もいます。普段から技能実習生を気にかけ、些細な変化に気づくことが大切です。
技能実習生が失踪した時の対応法
技能実習生が職場に現れず、連絡がつかない場合は失踪した可能性があります。その場合、次の手順で対応しましょう。
①監理団体へ連絡する技能実習生が失踪したら、監理団体へ連絡してください。受け入れ企業と監理団体で技能実習生を探します。
②技能実習生の状況を確認する会社の同僚や、近くに住む実習生がいたら、失踪した技能実習生について聞き取りを行いましょう。最後に顔を合わせたのはいつか、普段と変わったことはなかったか確認してください。また、技能実習生の部屋に入り、荷物を確認してください。貴重品や携帯電話、パスポートが置いてあった場合は事件に巻き込まれた可能性もあります。警察に捜索願を出しましょう。荷物や貴重品、パスポートが見つからない場合は失踪した可能性が高いです。送り出し機関や母国の家族にも連絡し、居場所を知っているか、失踪の気配があったかなどを確認しましょう。
③外国人技能実習機構に「技能実習実施困難時届出」を提出する監理団体から外国人技能実習機構へ「技能実習実施困難時届出」を提出します。失踪先が判明している場合でも届け出の必要があります。
技能実習実施困難時届出には、受け入れを行っている企業の情報や実習が困難になった理由、実習生の状況を記入し、提出します。
届出の提出後は、外国人技能実習機構や出入国在留管理機関からの指示を受け、行動してください。
失踪する前日までの給与を計算し、支払い手続きを行います。また、社内の規定に基づき退職手続きを行いましょう。雇用保険、社会保険、厚生年金の資格喪失手続きなどが必要になります。
技能実習生が失踪した場合、企業へのペナルティは?
技能実習生の失踪が多い企業は、技能実習における「優良な実習実施者」の基準を満たせなくなる可能性があります。優良な実習実施者の対象から外れると、技能実習3号の受け入れができなくなり、受け入れ人数枠も規定の人数となってしまいます。
「優良な実習実施者」の基準は、ポイント制です。150点満点中、6割以上の点数をとれば、優良な実習実施者となります。
技能実習生の失踪に関する基準は次のとおりです。
・直近過去3年以内における失踪がゼロ又は失踪の割合が低いこと。
失踪者が0人 : 5点
失踪者が10%未満又は1人以下: 0 点
失踪者が20%未満又は2人以下:-5点
失踪者が20%以上又は3人以上:-10 点
・直近過去3年以内に責めによるべき失踪があること
該当する場合:-50 点
失踪者の基準に、割合のほか人数があるのは、受け入れ数が少ない企業に配慮しているからです。例えば、3年間で3人の実習生を受け入れている場合、1人が失踪すると、「失踪の割合が20%以上」となり、10点減点されてしまいます。この場合、「失踪者が1人以下」の人数での基準を適用すれば、減点はありません。
ただし、受け入れ企業の「責めによるべき失踪」があった場合には、人数に関わらず50点の減点となります。現在、「優良」となるには150点満点中、6割以上の90点以上をとる必要があります。実習実施者の責任による失踪が起きた場合は、50点引かれるため、「優良な実施実習者」になるのは難しくなります。
「責めによるべき失踪」は個別判断となりますが、給与を適切に払わない、劣悪な環境で働かせたなどの理由で技能実習生が失踪した場合が該当します。
また、受け入れ企業が労働基準法や技能実習法に違反していた場合は、懲役や罰金などの罰則を受けることがあります。法令違反等がある場合、技能実習生の新規受入れが停止となることもあります。
★まとめ
実習生が失踪する理由は大きく分けて2つあります。1つ目は実習生の待遇に関する企業側の問題、2つ目は多額の借金を抱えている実習生側の問題です。技能実習生の失踪を防止するためには、採用時に手取り額を含めた給与の説明を行うこと、実習生の借金の返済計画を聞くこと、実習開始後の給与・労働環境・住居環境を整えること、気軽に悩みを相談できる窓口を設けることなどです。万が一、技能実習生が失踪した場合はすぐに監理団体への報告が必要となります。技能実習生の失踪が多い場合、企業は「優良な実習実施者」の基準を満たせなくなる可能性があります。また、技能実習生の失踪原因が企業の受け入れ体制の問題だった場合、技能実習法や労働基準法に違反している可能性があり、法に基づく罰則や新規受け入れ停止の措置を受けることがあります。
技能実習生失踪時の警察への行方不明届について
失踪した技能実習生の対応について警察で行方不明届を出すよう言われているため対応をしているが、警察側から事情を細かく聞かれるため時間が掛かる。
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